
セルリー 第31話
雨が上がり始めて、きらきら輝いているアスファルトは、少しだけ私の気持ちと重なったような気がして嬉しかった。
そういえば、今日は両親の結婚記念日だ。うちには妙な、というか少し洒落た風習があった。結婚記念日とか、誕生日とか、そういうイベントごとがある日には、決まって父が花を買ってくるのだ。妙に洒落っ気のある、というか、なんというか。そういうのが好きなのだ。そして決まって花言葉を添える。
父曰く、少し照れ臭い言葉も、花言葉のせいにしてしまえばいいらしい。
「前向きな想いを伝えられて、嫌な思いをする人はいないよ」
毎回、特に母に花を渡すときは、決まってそう言っている気がする。
そもそも、花言葉は誰が決めるものなのか。少し気になって調べたことがある。どうやら特定の誰かが決めるものではなく、花の見た目、色、性質、言い伝え、一般の人の公募。実にさまざまな要因によって花言葉は生まれ、そして時代とともに変化していくらしい。
正式な決め方があるわけではなく、誰かが言い出した言葉が定着したり、公募されたりすることもあるらしい。なんともまぁ勝手なものだ。
花本人にしてみれば、こんなに失礼なことはないだろう。自分はこうだ。こうありたい。そう思っても、周りの環境や、ましてや知らない誰かにレッテルを貼られ、まるで一つの物語が背景に存在しているかのように色眼鏡で見られてしまう。
私は一体、どんなふうに周りから見られているのだろう。
誰かが見つけた、私には、どんな花言葉がつくんだろう。そしてそれは、私にしっくりくるものなのだろうか。
夕焼けのライトに照らされて、否応にも輝き続けるアスファルトを、ぴしゃぴしゃ音を立てて、私のゴム靴が進んでいく。帰ったらセロリの花言葉を調べてみよう。
家路の途中、まずは彼女と別れ、そのあと辻林と二人で歩いた。
彼が私に話しかける。
「なんかさー。心配して損したよな?」
「うん、まぁね。でも何もなさそうでよかったじゃない」
「まぁそうなんだけどさ。でも、なんか最近ダメなんだよね、俺」
「ん、何が?」
「なんかあいつのこと気になっちゃってさ。心配っつーか、なんつーか。」
信号が変わり、車が走る。
道路沿いの景色は、まるでオレンジ色の舞台みたいにとても綺麗だった。
「そうだね」
どうとでも取れるような声を出し、私は相槌を打った。
寂しそうに笑う辻林の方を見れなかったのは、焦げた空のせいだけではなかったことを、きっと自分で知っていた。
家に帰って、調べたセロリの花言葉は、
「真実の愛」
そして、
「会える幸せ」
だった。
image quoted from Pinterest
